インフルエンザの予防接種であれを忘れたエピソード 後編

その先生は、
数学の専門だった。
当時は、30代後半か40代前半
くらいの年齢だったと思う。
背は高く、
よくジーパンをはいていた。
そのスタイルが、年齢の割には、
若々しい印象を与えていた。
物静かで、クールな
先生だった。
声を張り上げて
生徒を指導している姿を
見た記憶がない。
色白で切れ長の目。
多めの前髪を横に流して、
横に流した前髪を
気にする仕草をしていた。
どちらかといえば、
大学の教授という感じだった。
先生の周りには、いつも静寂が
流れていた。
何故、中学校の先生なのか、、、
不思議な方だった。
その先生の数学の授業は、
好きだった。
数学が好きだった、という
理由もあるが、
先生の授業は好きだった。
たまに、冗談を言っている
ようだが、クールで物静かな
話し方の延長上では、
生徒達には、冗談には聞こえず、
笑いは起きなかった。
私は、内心ほくそ笑んでいた。
(また、何気に面白い事
言った。、、、と、)
私は、この先生の受け持つ、
担任のクラスには、
一度もなったことがない。
ただ、先生のクラスは、
当時、やんちゃな生徒も
いたとは思うが、
不思議とまとまっていた。
私は、この先生に目を付けた。
この、先生なら、
きっと、わかってくれる、、、。
あの、笑われない冗談のセンスを、
私なら理解ができるように、、。
数学の成績はいつもよかった。
そういう意味で、先生の授業は
真剣に聞いていたし、
生徒として、
信頼をしてもらっている、、、、
となぜか、不確かな自信があった。
私は、休み時間にこっそり
職員室の先生のもとへ行った。
そして、小声で言った。
「今日の、予防接種の予診票の
捺印を忘れてしまって、
先生、本当にすみません。
 捺印、押してもらっていいですか?」
先生は、一瞬あっけにとられたが、
すぐに事態を把握してくれた。
そして、今回だけという約束で、
内緒で、予診票に捺印をしてくれた。
そう、私と、先生とは、
名字が同じだったのだ!!
今の、教育現場では、
有り得ない事かもしれない。
先生の先生らしからぬ、
行動が、、、決断が、、、
時には、本当に生徒を
助けてくれることだってある。
私はその先生の、
数式では、表せないほどの
感謝と、センスと、優しさを
一生忘れることはない。

スポンサーリンク